大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成10年(行ウ)4号 判決 1998年7月16日

大阪府高石市東羽衣六丁目一八―一八

原告

澤田正行

同市西取石三丁目五番二二号

原告

古川英子

同市東羽衣五丁目八―八

原告

岡倉政光

同市東羽衣二丁目二一―三四

原告

疋田敏忠

同市羽衣一丁目二一―一四

原告

和田範夫

同市羽衣一丁目二二―二三

原告

根来清

同市千代田一丁目七―五

原告

長森彬匡

同市高師浜三丁目九―六

原告

中尾英雄

同市加茂一丁目一三―二五

原告

鈴木陸子

同市綾園三丁目一一―二六

原告

岡本三七美

同市千代田六丁目一〇―九

原告

浦益子

同市千代田六丁目五番一七号

原告

秋吉都

同市千代田四丁目三―一五

原告

村田俶子

同市加茂四丁目五―六

原告

榎克彦

同市千代田五丁目一―一三

原告

井戸一二香

同市千代田一丁目八―一三

原告

小池豊

同市千代田六丁目一五―五

原告

阪口房枝

同市綾園二丁目六―三二

原告

井上和弥

同市綾園二丁目一五番五号

原告

辰巳啓造

同市綾園二丁目二三―二三

原告

古川幸次

同市綾園六丁目九―一

原告

古川芳男

同市取石三丁目九―五一

原告

山本美行

同市西取石七丁目二―一六

原告

松尾隆則

同市西取石七丁目二―五

原告

古久保伊万夫

同市西取石一丁目一六―七

原告

古川良一

同市西取石五丁目三―一〇

原告

古川喜章

同市取石一丁目一二―二〇

原告

古川茂和

同市取石七丁目四―一四

原告

須本計一

同府泉大津市東助松町四丁目五番八号二〇三号

原告

田中清隆

右原告ら訴訟代理人弁護士

森正博

岩浅俊朗

里田百子

大阪府泉大津市二田町一―一五

被告

泉大津税務署長 塩見隆行

右訴訟代理人弁護士

小藤登起夫

右指定代理人

下村眞美

前田正明

坂本幹雄

古曽部歩

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が中野さよ子に対して平成九年一〇月一七日付けでした酒類販売場移転許可処分(以下「本件移転許可処分」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

原告らは、大阪府高石市内において酒類の販売を業として行っている者であり、被告は酒税を含む国税の徴収等の事務を行う機関である。

2  被告の酒類販売場の移転許可処分

被告は、中野さよ子(以下「中野」という。)に対して、平成九年一〇月一七日付で、酒税法一六条一項に基づき、中野の営業する酒類販売場を高石市東羽衣六丁目一の三七から高石市加茂二丁目三四七番四に移転する本件移転許可処分をした。

3  本件移転許可処分の違法性

被告のした本件移転許可処分は酒税法一六条二項の趣旨に反してなされた違法なものであり、取り消されるべきである。

(一) 中野の有する酒類販売免許は、中野の夫が取得し、同人が平成六年に死亡したためこれを相続したものであるところ、中野の夫の死亡により同人が営業していた酒類販売店は、事実上廃業状態にあった。

ところが、株式会社井ノ阪酒店(以下「井ノ阪酒店」という。)は、中野の夫の有していた酒類販売免許を利用して、高石市加茂二丁目三四七番四の宅地上に所有する酒類販売用店舗(以下「本件店舗」という。)において、酒類等のディスカウントショップの営業を計画し、中野に対し謝礼を支払って、廃業状態にあった酒類販売店の営業を相続させた上で、本件店舗に酒類販売場を移転するための酒類販売場の移転許可の申請手続(以下「本件移転許可申請」という。)をさせた。

このような経過で、本件店舗の経営は実質的に井ノ阪酒店がしており、中野の本件移転許可申請は、酒類販売免許を事実上売買する目的でされたものであるから、これに対する本件移転許可処分は、酒税法第一六条第二項の趣旨に反し違法である。

(二) 本件店舗において井ノ阪酒店のディスカウントショップの営業が開始され、その結果、原告らを含む付近の酒類小売店の経営者に対して深刻な打撃を与えることになり、酒類の地域的需給の均衡を破ることになることは明白である。そして酒類販売場の移転許可に際しては適正な需給の均衡を実現することが要請されるところ、本件移転許可処分は酒類の地域的需給の均衡を勘案しないまま行われたものであり、違法である。

4  よって、原告らは、被告に対し、本件移転許可処分の取り消しを求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件移転許可処分は酒税法一六条一項に基づく処分であり、同法一六条は、同法九条の定める酒類販売業免許制度の一環として設けられたものであるところ、同法における酒類販売業者の免許制度に関する諸規定は、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保しようとするものであって、既存の酒類販売業者個々人の個別的利益を保護する目的が含まれているとは解されない。

2  原告らは、いずれも本件処分の名宛人ではなく、泉大津税務署管内において、被告から酒類販売業者としての免許を受けた者にすぎないから、本件訴えは、本件移転許可処分によって原告ら各自の営業上の利益が侵害されることを理由として提起されているものと解される。仮に、原告らが、他の酒類販売業者の移転許可がされないことによって何らかの利益を得るとしても、それは、酒類販売業免許制度による反射的利益ないし事実上の利益にすぎず、法律上保護された利益ということはできない。

3  したがって、原告らは、本件移転許可処分の取消を求めるにつき法律上の利益を有する者ではない。

三  被告の本案前の主張に対する反論

酒税法一六条二項、一〇条一一号には、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許を与えることが適当でないとみとめられる場合には販売移転許可処分をしないことができる旨規定されており、このように、酒類販売業の免許制度の趣旨には、販売業者の経営的安定を図る目的も含まれている。

原告らは、本件移転許可処分にかかる酒類販売場の移転先に地域的に密着して酒類小売業を営むものであり、被告の本件移転許可処分により経済的に大きな影響を受け、経営の安定が危うくされるに到った。

原告らは、酒類販売業者の経営の安定という酒税法上保護された利益を本件移転許可処分により侵害されたから、本件訴えの原告適格を有する。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  被告の本案前の主張について判断する。

行訴法九条は、取消訴訟の原告適格について、当該処分を求めるにつき法律上の利益を有する者に限る旨規定するが、右にいう「法律上の利益を有する者」とは、「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」をいうと解すべきである。

そして、当該処分により、名宛人以外の第三者が、当該処分の直接の法的効果によらずして不利益を受ける場合、右第三者の有する利益が法律上保護された利益にあたるか否かは、当該処分を定めた行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が保護しようとしている利益の内容、性質、当該行政法規の関連法規との関係における位置づけ等を考慮して、当該行政法規が、右第三者の利益を個別具体的利益として保護しようとしているものであると解されるかどうかによって、判断すべきである。そして、当該行政法規が公益の実現等他の目的のため行政権の行使に制約を課している場合であっても、不特定多数の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、これを個々人の具体的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合、右利益も法律上保護された利益にあたるというべきである。これに対し、個々人の具体的利益がたまたま保護される結果となっているにすぎない場合、その者が受ける利益は、事実上の反射的利益にすぎず、法律上保護された利益にはあたらないというべきである(最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁参照)。

原告らは、本件移転許可処分により、原告ら酒類販売業者の経営の安定という利益が侵害される旨主張して本件訴えを提起しているところ、ある事業や職業の許認可について、これと競争関係に立つ既存同業者が自己の営業上の利益が侵害されることを理由として、その許認可の取消し訴訟を提起している場合、右営業上の利益が法律上保護された利益にあたるか否かは、当該許認可の根拠となる行政法規の趣旨、目的、当該行政法規に、既存同業者の保護につながるような業者間の適性配置基準や需給調整規定、許認可の際に聴聞を受ける機会を与えるなど既存同業者に対する手続的な保証規定が存在するか否か、当該事業ないし職業が国民生活上不可欠な役務の提供をその内容とするものであって、提供すべき役務の内容、対価に関する強力な規制がなされているか、などの諸点を考慮して、当該行政法規が、既存同業者の営業上の利益を保護する趣旨を含むものであると解されるかどうかによって決せられるべきである。

二  そこで、本件について検討するに、酒税法一六条一項に基づく本件移転許可処分は、これによって、右許可を受けた者に対し、移転先の場所において適法に酒類の販売業を営む地位を取得させるものにすぎず、右場所の隣接地及び周辺において酒類の販売業を営む者が、その本来的効果として、その営業権やその他の権利、利益について制約を受けたり、また業務を課せられたりするものでないことは明らかである。

また、酒税法は、酒類には酒税を課するものとし(同法一条)、酒類製造業者を納税義務者と規定し(同法六条一項)、酒類等の製造及び酒類の販売業について免許制を採用したうえ(同法七条ないし一〇条)、酒類の製造場又は販売場の移転についても許可制を採用している(同法一六条)。これは、同法が酒類の消費を担税力の現れであると認め、酒類についていわゆる間接消費税である酒税を課することとするとともに、その賦課徴収に関しては、いわゆる庫出税方式によって酒類製造者にその納税義務を課し、酒類販売業者を介してその代金の回収を通じてその税負担を最終的な担税者である消費者に転嫁するという仕組みによることとし、これに伴い、酒類の製造及び販売業について免許制ないし許可制を採用したものであると解される(最高裁判所平成四年一二月一五日第三小法廷判決・民集四六巻九号二八二九頁、最高裁判所平成一〇年三月二六日第一小法廷判決・裁判所時報第一二一六号四頁参照)。このように、酒税法は、専ら、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、このような制度を採用したものと解されるのである。

ところで、酒類の製造場及び販売場の移転の許可申請があった場合において、税務署長は、「正当な理由がないのに取締上不適当とみとめられる場所に製造場又は販売場を設けようとする場合」(同法一〇条九号)又は「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は販売業の免許(酒類の製造場及び販売場の移転の許可)を与えることが適当でないと認められる場合」(同法一〇条一一号)には許可を与えないことができるとされており(同法一六条二項)、後者の消極要件には、その文言上、「酒類の需給の均衡を維持する必要」が挙げられている。しかし、前判示のとおり、酒類の製造及び販売業の免許制度の趣旨が、専ら、酒税の確実な徴収とその税負担の消費者への円滑な転嫁を確保する必要から、このような制度を採用したものである以上、「酒税の保全上」という財政目的から定められたものと解すべきである。そして、その移転許可の申請手続についても、同法一六条一項の委任に基づいて定められた酒税法施行令一五条五号が、酒類販売場の移転許可の申請書には、「申請者の住所及び氏名又は名称」、「移転の理由及び年月日」、「販売場の所在地及び名称」、「販売しようとする酒類の種類(品目のある種類の酒類については、品目)、範囲及びその販売方法」、「博覧会場、即売会場その他これらに類する場所で臨時に販売場を設けて酒類の販売業をしようとする者にあっては、その旨及び販売業をしようとする期間」及び「その他参考となるべき事項」を記載しなければならないとしているだけで、他に、酒税法及び酒税法施行令中には、許可申請に対する税務署長の審査の際、許可申請者以外の酒類の製造者、販売者等に許可の申請があったことを通知する手続に関する規定や、聴聞、意見の開陳をさせる手続等、これらの者を審査手続に関与させる趣旨の規定は設けられていない。

このようにみてくると、酒税法は、当該地域等の酒類製造者、販売者の経営の安定など既存業者の営業上の具体的利益を保護すべきものとする趣旨を含むと解することはできない。

以上の検討によれば、酒類製造場、販売場の移転について許可制を採用した酒税法一六条の規定は、酒税の徴収確保とその税負担の円滑な転嫁という財政目的の見地から設けられたものであって、既存の酒類販売業者等の経営の安定など営業上の利益の保護を目的としたものではなく、同条に定める移転拒否処分を通じて既存の酒類販売業者等が何らかの利益を得る場合があるとしても、右利益は、酒税法が酒類販売場の移転について公益目的実現の観点から行政権の行使に制約を課した結果生ずるところの事実上の反射的利益にすぎないのであって、酒税法によって保護された利益ではないと解するのが相当である。

三  そうすると、原告らは本件移転許可処分の取消しを求めるにつき行訴法九条の規定する「法律上の利益」を欠き、原告適格を有しないものというべきである。

四  以上によれば、原告らの本件訴えは、いずれも訴訟要件を欠く不適法なものであるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 北川和郎 裁判官 和田典子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例